原子爆弾開発を指揮した男は,原子の大きさが,地球の大きさなどよりも大きいことを知っていたのかもしれない。原子爆弾,原子技術,が,地球を覆い尽くす。
マンハッタン計画が原子力を解き放ってから半世紀,ハイテクも原子レベルの時代となりつつある。分子サイズのトランジスタを埋め込んだパソコンは,今日のパソコンの1000億倍の速さで動く。いつかは,目に見えないほどのコンピューターが洋服に縫い込まれ,さらにナノテク機器が,私たちの体内に居場所を見つけるかもしれない。
米国の原爆開発を担ったマンハッタン・プロジェクトは,1942年に組織された軍事政策委員会の下で全般的政策がなされた。その委員長だったのが,科学研究開発局長ヴァニヴァー・ブッシュ。彼はその一方で,現在のウェブの起源を作った,とも云われている。ブッシュが45年に発表したメメックス(MEMEX,記憶の拡大構想)は,個人がすべての蔵書,記録などの情報を機械化して蓄積し,柔軟な検索システムによって自由にそれにアクセス,利用できるというもの(まさにウェブそのもの)。情報は連想を促し,関連する情報へと繋がっていく(リンクの概念に通じる)。膨大な情報を簡易に検索・入手するためには,圧縮による保存と伝達が必要となる(ウェブ上の動画・音楽の圧縮技術に通じる)。
原子が地球の大きさを破壊するのを見るうちに,彼の頭の中で,誰も思い寄らない地球を覆う情報システムの構想へと繋がった,というのはどうだろう。50年以上の歳月の後,原子レベルの機器がメメックスの道具として,動き出す。原子サイズの機器が,地球を覆うネットワークにアクセスしようとして,いる。
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